第66回「育つ雑草」鬼束ちひろ
体調不良で休養中の鬼束ちひろだが、シングルとアルバム共に発売される。しばらくの沈黙を破ったと思ったら、大きくイメージチェンジを計り驚かせてくれた。その大胆な変化が、以前インタビューで、「常に不安でたまらない」と語っていた言葉を思い出した。彼女の心の中が揺れているのか? アーティストは、時にその揺れで作品を生み出す。だからこそ、厳しい仕事となることもある。今後の復活をゆっくりと待とう。
●鬼束ちひろって?
(→公式サイト)
鬼束ちひろ(おにつかちひろ):1980年10月30日生 宮崎県出身
2000年2月に「シャイン」でデビュー。2枚目のシングル「月光」が、仲間由紀恵主演のテレビドラマ「トリック」のテーマソングになり、ヒット。2001年12月には「眩暈」で日本レコード大賞 作詞賞を受賞。言葉に力のあるシンガーソングライターとして、認知されている。2004年09月20日、しばらくの沈黙を破り、東京・日比谷野外音楽堂のイベントに飛び入り。超ミニスカと派手な衣装で“裸足の歌姫”から“ロッカー”に大胆なイメチェンを図った。今回のシングルは、A&Mレーベル移籍第一弾。約1年ぶりのニューシングル。しかし、現在は体調不良を理由に休養に入っている。
■現実的な言葉
久しぶりのシングルは、これまでの彼女の言葉よりかなり具体的なものになっていた。現実的だからこそ、より痛く感じるという点では、彼女のスタイルは変わらない。しかし、これまでの作品を愛してきたファンは、多少理解が不能であっても崇高な言葉で訴えて欲しかったかもしれない。
悲劇の幕開け
花のようには暮らせない
食べていくのには
稼がなきゃならない
「稼がなきゃならない」という言葉が、彼女の口から吐かれる時、ある種の裏切りが気持ちよさを誘う。現金なんて関係ない世界で、浮遊していたかに見えた人物が現実世界に降りてきた。そして、生身の人間として生活を語る。
■「逃げる」行為
日々、いろんな事が起こる中で忘れたいこともある。しかし、人は記憶という装置を身につけているから、それからは逃れられない。PTSDもそのひとつ。自分が意識しているより、身体や頭は多くの事を記憶している。
経験を忘れる 育つ雑草
気分は野良犬
綺麗だと何度でも言い聞かせて
雑草、野良犬。いずれも、今を生きるために必死にならなければ命の保証のないものたちだ。彼女は、未来に不安を感じ恐れていたのかもしれない。だからこそ、今を必死で生きることに集中できるものに憧れる。人は、裕福になりすぎて、時に自分の首を自分で絞めることがあるのだ。
公開:2004/11/12 TEXT・みど(c) 2003 RGS680,all rights reserved.