読書っ子にっき

テキスト&イラスト・芦之由
2007年4月18日

額に汗して書かれた本:潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影—躍進するIT企業・階層化する労働現場(横田増生)

潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影(横田増生)ライブドア事件のころ、やっぱり「額に汗して働く」ことが大切よね、みたいな論調が多く見受けられた。楽して儲けてるやつはけしからん的な発想だったのだろうが、なぜかIT業界全体が「パソコンのキーボード叩いてるだけで額に汗してない人たち」と思われている感じがした。IT業界だって、みんな文字通り額に汗して働いてるのになぁと思ったわけである。

でもまあ、IT技術により額に汗しなくてもよくなった場面が多いのも事実で、ネットを見てるとコピペ(コピー&ペースト)だけで成り立っている「額に汗してない」ブログを目にすることも多い。

そんなコピペブログと対極をなすのが、「潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影—躍進するIT企業・階層化する労働現場」と言えよう。
アマゾンの物流センターに作業員として潜入した(ただのアルバイトなんだけど)著者が、額に汗して働いて知った内部事情をリポートした、まさに汗の結晶のような本である。

まあ結局のところ、アマゾンの「1500円以上の購入で送料無料」というのを支えているのは時給900円で物流センターを走り回るアルバイトたちだ、ということがよく分かるだけで技術的な側面や経営戦略に深く突っ込んだ内容ではない。 そこからアマゾンで買い物する高所得者層と、アルバイトたち低所得者層の格差へと話は展開するのだが、まあそれはアマゾンとは別のお話。

よって「アマゾン・ドット・コムの光と影」というより、「アマゾン・ドット・コムの光」と格差社会の「影」といった内容の本になっている。アマゾン研究本として見ると、薄まったジュースのように感じる人もいるだろう。でもその味はおいしくないってわけじゃないんだな。

事件はモニタの中でではなく現場で起きているのだ。
現場主義で書かれたこのルポは、額に汗して書かれたものにしか出せない面白さがあるのだね。

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