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■■書評■■

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とつぜん書評だったり Vol.3

とつぜん忘れた頃にやってくる書評コーナー。
今回はあしが最近読んだおすすめ小説を2冊紹介します。どちらも初めて読む作者の作品だったのですが、読み応えありました。
読書の秋なんて言葉も最近はあまり耳にしませんが、たまには普段読まないような作家の本を読んでみるのもいいかもよ。(あし)

■1985年の奇跡

1985年の奇跡 表紙1985年の奇跡
五十嵐貴久
2003/7
[→amazonで購入]

1985年の都立高校の弱小野球部を舞台にした青春小説。

いきなり冒頭は喧嘩のシーン、おニャン子クラブの新田がいいか国生がいいかという他愛のないことが喧嘩の原因。もちろん当時の高校生男子(たぶん中学生も大学生も)にとっては、他愛のないことなんかじゃないよね。この導入部で、「そうそう! 当時学校でおニャン子のことばかり話してたよね」、なんて懐かしがり、そのころに気持ちがタイムスリップできれば、作品世界に一気に入っていけるだろう。
でも、もしそうでなくても大丈夫。いつの時代にしろ、青春時代を通過してきた人なら、この甘酸っぱくて、せつなくて、熱くて、いい加減でちゃらんぽらんな、そんな青春模様に共感したり、反発したり、嫉妬したりできるだろう。

日航機が墜落して、阪神が優勝した1985年の世相や流行が所々にちりばめられているが、これはあくまでスパイスとしてしか機能してない。
しかし、このころから今まで脈々と受け継がれているように思える、若者達のメンタリティが小説の中にうまく表現されていると思った。

僕たちはいつでもそうだったけど、はっきりと負けたくはなかったのだ。明確な形で結果が出ることが怖かった。自分たちに能力がないと宣告されることが嫌だった。
だから僕たちはいつでも、本気じゃない、と言い続けていた。それなら負けても悔しくない。負けてもどうってことはない。だって本気じゃないんだから。

この言葉こそ、1985年の若者たちのメンタリティを言い表していると思う。
この考えを越えて、その先に踏み出せるかどうかがその人の将来を左右すると言えるのかもしれない。
そして、この小説の主人公たちは、その先に踏み出した。格好良くはないし、最後も中途半端だったが、しかし踏み出す努力をしたことは、彼らの将来にとっての大きな一歩だったと思う。

1985年の奇跡についてイラスト

80年代的だなぁと思える超管理主義の校長先生との対立、ヒロイン的存在の女性マネージャーへの憧れ、転校生の豪腕ピッチャーの秘密、などなど、随所随所に山場を作りながら、飽きさせない展開をみせるこの小説、ハリウッド映画のように練られたストーリーに私は引き込まれた(悪く言えば予定調和的、ともいえるのだろうが)。
特に後半、転校生のピッチャー沢渡の秘密が明らかになってから、秋季大会で宿敵の高校と対戦するクライマックスまでは、一気に読んでしまった。
前半のちょっとした伏線が、最後に活きてきたり、最後はやっぱりこうきたか、と思いながらも泣けてくる展開だったりと、とても考えられた、完成度の高いストーリーだった。

作者の五十嵐貴久は、デビュー作でホラーサスペンス大賞を受賞し、その後時代小説も書いているという多芸な人のようだ。コンセプチュアルに考えてストーリーを作れる人なのだろう。
しかし、作者としても「よくできた小説だった」という誉め言葉では、そんなにうれしくはないだろう。
素直に言うと、私この小説で感動しました。なんかくやしいけど。やはりこの言葉を作者に伝えておいた方がいいな。いや、こんなページ見てないだろうけど。

ところでこの物語、映画やドラマにするといいと思う。というかそう考えている人はぜったいいるはずだ。1985年当時の映像や音楽をうまく使えれば、小説よりもっと奥行きのある楽しい作品になりそうだ。
おニャン子クラブの映像は欠かせないということで、フジテレビでドラマ化ってのが本命かな。「ウォーターボーイズ」で熱血青春路線もなかなかいいじゃんってことになっているなら、ぜひ「1985年の奇跡」(たぶんドラマ化の時にはタイトルは変わるな)もどうでしょう、フジテレビ様。
カンサイ役は森山未來でどうかな? いや、彼ふだん関西弁だったし、いいかなと思って…。(あし)

■子どもの王様

子どもの王様 表紙子どもの王様
殊能将之
2003/7
[→amazonで購入]

講談社が「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」といううたい文句で始めた「ミステリーランド」というレーベル(?)の第一回配本のうちの一冊。


表紙や挿絵のイラストはMAYA MAXX
ページの角が丸くカットしてあるのも凝っている。子どもも読めるように総ルビ付き(漢字に読み仮名がついてるってことね)なのもいいよね。

ミステリーって全然読まないのでしらなかったのだが、この作者・殊能将之(しゅのうまさゆき)[→殊能将之の公式サイト]ってミステリー界では脚光を浴びている人らしい。

団地の案内図を使ってのトリックはなるほどと思わせ、小説内の架空のテレビ番組「神聖騎士パルジファル」(特撮ヒーローモノ)「弾丸!コンデンスミルク」(バラエティ)の描写もディテールが細かく「あるある」感が見事だ。

子どもの王様についてイラスト

しかしこの小説、子どもと大人が楽しめるお話と思い読み進めていくと、「子どもの王様」の正体も結末もえらく現実的かつ暗いものだった。
うーん、子どもにはどうなのかなこれは、とも思ったのだが、しかしそれこそ作者の狙いかもしれない。
子どもは大人が思っているより、物事を本質的に理解するとも言われている。子どもにはまだ分からないようなことでも、感覚的に受け止めて結構的確に理解するもののようだ。
最後にカタルシスを感じさせるような展開に見せかけて、後味の悪い、ちょっぴり苦い結末にしたのは、子どもたちにこの感覚を味わって欲しいと思ったからなのかもしれない。

子どもに読ませようと思った大人は、まず自分で読んでから、子どもに勧めるかどうか判断したほうがいいかも。(あし)

(2003/11/3公開)


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