「ウェルカム・ホーム!」観劇レポート
2004年6月16日、ウッディーシアター中目黒で芝居をみた。これは、私にとっては、とても大事な出来事だった。
●公演日:2004年6月15日~20日
●場所:ウッディーシアター中目黒
●原作:鷺沢萠
●出演者:斉藤武士、高瀬郁子、鈴木誠
文珠康明、前田宏、白川沙良
●プロデュース・脚本:鷺沢萠
●演出:小林武士
はじめに
4月14日、出張で大阪のホテルで目覚めた私は、いつものように「めざましテレビ」をつけてベッドでごろごろしていた。時間はおそらく6時半少し前、「泉鏡花賞を受賞した……」の言葉で、テレビの画面に目を向けた。そこには、鷺沢萠さんの訃報を知らせるニュースが流れていた。信じられない私の元に、友人からメールや電話が届いた。やっぱり本当なんだ。10時近くの飛行機で東京に戻り、ネット環境が整った会社から、ニュースサイトを見た。最初に報道された心不全は自殺に変わっていた。そして、その時、始めて鷺沢萠という作家が、松尾めぐみという女性であることを知った。
日々は過ぎていく。私は私の人生を生きていた。彼女の分まで生きてやる! という勝手な思いを持って。鷺沢さんの本に出会ったのは、21歳の時、「少年たちの終わらない夜」だった。その後、すべての本を買い、サイン会に出向き、トークライブにも行った。私にとってとても大切な存在だった。
その彼女の遺作となった舞台「ウェルカム・ホーム!」。公演するのか、しないのか、関係者の方々の思いはとても重かったと思う。だけど、公演してくれた! 嬉しかった。どうしても彼女の最後の声を聞きたいと思ったから。
観劇レポート
いつから、日本人はみんな普通になったんだろう? いつからみんな中流を無意識に意識するようになったんだろう。私が子どもの頃、自宅には電話が無かった。住所録の電話番号の横には(呼)という言葉が記されていた。ほんの30年前の話である。今の20代前半の人には、理解してもらえないかもしれない。携帯電話が発達し、一家に一台の電話は一人一台になった。私は自宅に電話がなかった頃、おそらく自分の家を中流とは思っていなかったと思う。まぁ、子どものことなので、そんな事さえ考えていなかったと思うけど。
さて、今回の「ウェルカム・ホーム!」。「ふつうの家族」をテーマにした話である。「ふつうの家族」とは、父、母、その子どもたちなのだろう。そして、その関係には、戸籍という紙での契約や血縁がある。、しかし、契約や血縁があっても、言葉を交わさない親子もどこかにはいる。家族の定義は、「生活を共にする」ということでもいいんじゃないか?と、この芝居で問いかけられた。
芝居の中では、中国人の父、韓国人の性同一性症候群である母(実は男性)、ブラジルからの不法滞在者である兄、純粋な日本人である主人公、海外から労働に来ている従兄弟、がひとつの家族として存在している。そこには、紙での契約も血縁関係もない。
そして、主人公の婚約者として、ふつうの日本人が現れる。しかし、婚約者もふつうではなかった。両親が難民であり、自らその過去を隠すために、帰化し「ふつう」を装い生きていたのだ。婚約者は叫ぶ。「隠せよ! ふつうでないことを隠せよ! そんなに堂々とするなよ」と。
これらを「ふつう」と呼ぶのは無理があるのかもしれない。でも芝居の中で、彼らはどんな家族より家族らしかったし、幸せそうだった。人は頭で考える。だから糸が絡まることがある。もっと感覚で生きたら、楽になるのかもしれない。
芝居を観ながら、大いに笑い、少し泣いた。こんな素敵な話を残してなぜ、鷺沢萠は逝ってしまったのかと、また思った。しかし、時は戻らない。現実を受け入れ、私は生きていく。


状況: